常盤台の優美さの秘密と街づくりの方針 しゃれ街理事長に聞く

2018-09-28

 対談I

中島淑夫氏 NPO法人ときわ台しゃれ街協議会 前理事長

 

インフラの素晴らしさ - 常盤台の最大の魅力

中湖 常盤台の最大の魅力は何とお考えですか。

 

中島 何といっても、東武鉄道による開発当時、設計にあたった内務省の小宮賢一の常盤台の都市デザインが素晴らしいということですね。常盤台は、プロムナード(遊歩道)、クルドサック(袋路)、駅前ロータリーなど曲線の美しさ、常盤台公園や小公園、ロードベイ(現在児童公園)などゆとりをもたせるセミパブリックスペースが特徴です。

 

どの街路をとっても、単調な直線というのは無いんです。ときわ台駅から南北に貫く中央通りだけです。駅から放射状に走る道も常盤台住宅地の北側を東西に走る富士見街道(通称SB通り)の手前ですこし曲線になっている。プロムナードにS字状に繋がる道路もあります。いわく言い難い妙なるものがあるんです。

 

そして、道路インフラの素晴らしさです。東武鉄道が開発分譲した常盤台住宅地は、北口駅前ロータリー沿いの道路の幅員が12メートル、南北に走る中央通りは11メートル、その両脇の放射状に走る2本の道が8メートル、プロムナード(遊歩道)が8メートルといったように、当時では勿論、恐らく今日においても高い水準で道路網が設計されています。道路率が高いんです。一方、駅前の商業地の裏手やクルドサックには通称フットパスと呼ばれる通路があり店舗や生活に使いやすいよう心にくい配慮をしてます。これが曲線の美と並んで都市計画のプロが設計したといわれるゆえんです。

 

常盤台にも勿論、地価高騰や相続時の遺産分割などによる敷地細分化という脅威があります。景観を守るために最近、都心近郊のいわゆる高級住宅地では規制が強化されています。こういった規制は実は中湖さんが本書の中で書いているように、メリットもあるけれど度を過ぎるとデメリットもある。しかし、このインフラは規制があろうと無かろうと変わらない。常盤台の強みは実はこのインフラの強さなんです。

 

敷地規模 ― ガイドラインの浸透

中湖 中島さんはしゃれ街の理事長としてガイドラインを運用しておられるわけですが、こちらの状況はどうでしょうか。特に、敷地細分化、敷地規模に関連して。

 

中島 地価高騰、日本の戦後の相続税、遺産分割制度を前提にして敷地規模を昔のまま維持しろ、というのは理想ではあるけれども、現実的ではない。そこで、最低限の敷地規模として4人世帯の一般誘導居住水準123㎡を基準としてガイドラインとしたわけです。もちろん可能な限りゆったりとした敷地規模とするようお願いはしています。

 

このしゃれ街ガイドラインはよく知られるようになって、ガイドラインにある一低層(第一種低層住居専用地域)の最低敷地面積123㎡というガイドラインは業者にも浸透しています。やはり常盤台住宅地のグレードとしてこの程度の敷地の大きさは必要だろうというのがここにきてかなり定着した感じです。その方が営業しやすいのでしょうかね。

 

2015年に板橋区が常盤台一・二地域の一低層の最低敷地面積100㎡を都市計画の見直しの中で導入したというのも大きいですね。その前には、常盤台住宅地にも260㎡(約80坪)の敷地を4分割して66㎡で建て売りしようとする業者があらわれてきたりした。この時は、この業者と協議して常盤台住宅地には66㎡はふさわしくないということで話合いました。幸い2区画まとめて買う人があらわれてこのピンチをしのいだというような時期もありました。現在はこの面積では建築確認申請できなくなりました。

 

また、板橋区が2014年に常盤台一・二丁目地区を景観形成重点地区に指定したことも大きいです。これですべての建築・建設、開発、土地造成などの行為について板橋区との事前協議が必要になりました。板橋区はこの事前協議で、建築主などにときわ台しゃれ街協議会と事前協議するように誘導してくれています。つまり、以前はすり抜けていた案件も、必ずしゃれ街と協議するようになったわけです。

 

駅前商業地について

中湖 商業地についてはいかがでしょうか。特に駅前商業地について。2003年頃には11階建駅前マンションについて一部住民から反対運動などが起こっていましたが、しゃれ街のガイドラインでも、駅前商業地はいわゆる数値基準はないですね。地域毎のガイドラインには6階までを目途にしましょうなどとありますが、駅前ロータリーに面した商業地域は地域毎の基準はありません。

 

中島 駅前商業地の景観については住宅地とちがって、人によって見方は様々で、当時もいろんな意見がありました。高さについては2015年に板橋区が都市計画で最高35メートルという規制を布きました。絶対高さうんぬんより常盤台の駅前にふさわしい外観の建物を建てて欲しいということです。

 

東武鉄道がときわ台駅舎を伝統の姿を残し、さらにギャラリーを拡張して改築してくれることになりました。本年6月には、新改札が改築オープンするでしょう。青い瓦の宝形屋根と大谷石の壁を基調とした建物です。ときわ台駅舎は何と言っても常盤台住宅地の玄関であり、シンボルです。街並みの調和という意味でも意義深いことです。

 

緑を増やす

中湖 現在ガイドラインの運用で一番重視していることは何でしょうか。

 

中島 何と言っても緑を増やす、なかでも街行く人の目にふれやすい道路沿いに緑を増やすということです。これは、住宅地、商業地、近隣商業地域に関わらず重視しています。緑の連続で、街並みの調和を生むということです。

 

ときわ台景観ガイドラインのキーコンセプトは、(1)緑豊かで、(2)街並みに調和がとれ、(3)安全な街、です。緑による街並みの調和をはかっていくということ。

 

これについては協議は大きな効果を生んでいるという自負がありますし、実際に効果をあげています。建築主さんや業者さんの中には最初、あまり緑、植栽を意識していない方も多いのですね。協議を通してそこに注意が向く、そしてそうした方が、街並み景観が良くなって結局、自分にとっても良いということに気づかれるのです。

 

中湖 貴重なお話ありがとうございました。

 

出典:『常盤台住宅地物語』(中湖康太著 2018.6.30 kindle版 GCS出版) (プリント版)